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  • mhojo58

遠い日のカラオケ

 長引くコロナ禍で、もうすっかり、カラオケとも遠ざかりました。

 その昔、私が新人弁護士だったころ、大先輩の弁護士たちにカラオケに連れて行ってもらったことを思い出しました。

 大先輩が行くカラオケは、巷のカラオケボックスではなく、カラオケのあるスナックでした。繁華街の雑居ビルの中、木製の分厚い扉を開けると、中は紫煙が漂う、ほの暗い大人の空間。年季の入った赤いじゅうたんの上にバーカウンター、その奥に年齢不詳のママさん、ハスキーボイスで「まあ〇〇先生、お久しぶりじゃない、もうボトル残ってたかしら?」と後ろの棚を見やって大先生のボトルを取り出して、「いつものダブルね」とトクトクとグラスに注ぐ高級ウィスキー、甘い香りが漂います。小僧には敷居の高い空間です。

 1,2杯飲んでからカラオケが始まります。大先輩方は当時で60歳代から70歳代だったでしょうか、J-POPなどという軽薄な音楽とは無縁の世界です。フランク永井、水原弘、石原裕次郎、という往年の昭和歌謡は諸先輩方にとっては新し目の音楽で、まだ従軍経験のあった諸先輩がおられた時分、「月月火水木金金」とか「ラバウル航空隊」とか「加藤隼戦闘隊」などという軍歌まで飛び出していました。

 諸先輩方がひとしきり歌った後、「さあ、キミも何か歌いなさい」と言われてマイクを持たされ、さて何を歌おうかと逡巡します。当時流行っていた曲、小沢健二だのミスチルだのを歌っても先輩方は全く知らず盛り上がらないと思って悩みました。仕方なく、その昔、実家で親父が風呂場で歌っていた三波春夫の「チャンチキおけさ」なんかをうろ覚えで歌うと、「キミはずいぶん古い曲を知っているんだね」と感心していただいて一安心です。しかし一安心もほんの束の間、また順番が回ってくることを懸念して、頭の中のメモリーをフル活動して(当時はスマホはありませんでした)、小林旭だのクレイジーキャッツだのを歌った記憶があります。

 先輩方が歌とお酒に疲れてお開きとなり、ようやく終わったと安堵した私に対して、先輩の一人が一言。「無理して俺らに合わせなくてもよかったのに。俺は若い人の曲聞きたかったな~」とのこと。

 今や遠い日の、若き日の修業の一コマです。

 

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