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弁護士の懲戒処分

毎月、全国の弁護士のもとには「自由と正義」という、日本弁護士連合会(日弁連)が発行している会報が届きます。職務上有益な情報がたくさん掲載されているのですが、私を含めた大半の弁護士がまず読むのは後ろの方に掲載された「懲戒処分の公告」です。


 懲戒処分とは弁護士が何か問題を起こして、依頼者等からその弁護士が所属する弁護士会に対して懲戒請求がなされた際に、各弁護士会が下す弁護士に対するペナルティのことです。軽い方から①戒告、②業務停止、③退会命令、④除名です。


 戒告はいわゆる注意処分です。注意だけなら軽い処分なのでは、と思われる方もおられるかもしれませんが、上記「自由と正義」に掲載されて全国の弁護士の知るところになり、かつ弁護士以外の方でも調べればわかってしまうことなので、その弁護士の業務上の信頼性にはかなり影響することになります。決して軽い処分ではありません。


 業務停止は一定期間弁護士業務を停止することです。これは今まで受任していた全事件を一旦解約して辞任し、顧問契約なども解除することになります。また事務所の看板なども一旦取り外します。一切の業務を停止するのですから、関係者等からの問い合わせに対応したり、連絡文書などを送ることも禁止されます。なんとなく、江戸時代の武士に対する処罰で、竹矢来で屋敷を囲って閉じ込めてしまう「閉門」に似ているような気がします。業務停止まで来ると、弁護士的には「相当に重い処罰」という認識です。


 退会命令は所属弁護士会から強制退会させられること、除名は弁護士としての資格はく奪です。いずれも弁護士業務はできなくなりますが、退会命令は他の弁護士会に入会すれば再開できますし、除名も一定期間が経過すれば再度弁護士登録ができます。ただし、退会命令にまで至った弁護士が他会に入会できるか、除名された弁護士が再登録できるか、といえば事実上大きな困難が予想されます。弁護士的には事実上、「弁護士生命の終了」という認識です。


  懲戒について「何か悪いことをしなければよいのではないか」と思われる方もおられるかもしれません。しかし、昨今依頼者や相手方の方々の眼も厳しくなり、懲戒される方のハードルは低くなっています。最近多いのは①事件放置、②自力救済、③名誉棄損的な言動、④依頼者との金銭的トラブル、といったものでしょうか。①事件放置は引き受けた事件を一定期間ほったらかすことです。受任した事件が複雑であったり専門的であったりして自分の手に負えないと感じる事件、依頼者や相手方の個性が強かったり相性が悪かったりする事件は、いけないことですが弁護士とて人間、気が乗らないということはあります。ただし、引き受けた以上は事件を前に進めなければならないのは当然であり、「できないのであれば断る」のが正しいやり方です。

 自力救済は自分の権利を法律の定めた手段によらずに実現してしまうことで、一番多いのが家賃滞納などで契約解除をしたのにまだ居座り続ける借主に対して、自分で強制的に荷物を出してしまったりカギを換えてしまうようなことです。依頼者の要求に応じてやってしまう弁護士はまだ一定数いるようです。

 名誉棄損的表現は、相手方に出した内容証明郵便や準備書面等に「詐欺師」とか「泥棒」とか書いてしまうようなことです。「筆の滑りすぎ」、「書きすぎ」には常に注意しなければなりません。

 金銭的トラブルは預り金を返さないとか、報酬の取りすぎ、といったことです。


 「自由と正義」を受け取った弁護士は、まず懲戒処分の公告を見て、ヒヤリとしたりわが身を振り返って気を引き締めたりしているのです。そういった意味では、懲戒処分の公告がもっとも業務に役に立つ記事、なのかもしれません。


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