top of page
mhojo58

モーレツ経営者、イーロン・マスク

 テスラのイーロン・マスク氏がツイッター社を買収した後、即座に社員半分を解雇し、かつ週80時間の長時間労働に耐えられないものは退社を迫るなどの報道がありました(あくまで報道などで聞いた話ですので正確性は措きます)。

 日本との労働法制の違いを感じます。日本では正当事由を欠く解雇は、解雇権の濫用として無効となります(労働契約法16条)。 

 マスクさんの解雇は、会社側の経営方針の転換による解雇と思われ、分類としては「整理解雇」になるのでしょう。日本では整理解雇が解雇権濫用になるかどうかの判断では4つの要件を満たす必要がある、とされています。

 ①人員削減の必要性、②解雇を回避するための努力が尽くされているか、③解雇される者の選定基準・選定の合理性、④事前の説明・協議義務、の4つです。かなり厳しい条件で、日本では労働者のクビを簡単に切れないことになっています。

 マスクさんの決断はかなりスピーディ、もっと言えばかなり強引で、日本の弁護士からみると、この4要件のどれも満たさないような印象があります。

 また、週80時間の労働に関しては、日本では1週間は40時間以内(労基法32条1項)、1日は8時間以内(同条2項)、休日は週1日以上(労基法35条)と定められています。ただ、時間外や休日労働については、労働者の過半数を組織する労働組合等と経営者との間で書面での協定があれば許されることになっています(労基法36条、いわゆる36協定)。ただし無制限に働かせることはできず、1か月に45時間、1年について360時間が上限とされています。また、これにはさらに例外があり、通常予想することができない業務量の大幅な増加に伴って上記の上限を超える時間数を働かせる場合には①休日労働を含めて単月100時間未満、②休日労働を除いて、1年720時間までは可能となっています(同法36条5項)。ただ、これでも1日に直すと残業4時間程度となりますので、週80時間労働は難しいようです。 

 このマスクさんの方針、昭和のモーレツ経営者のようで、時代が1周回って戻ってきたように感じます。みなさん海の向こうの出来事だと、なぜか経営者目線になるようで「激動する時代の中での生き残りには仕方がない」みたいな意見がネット上では目立ちます。少なくとも日本では到底できないことだと思います。労働市場をもっと流動化した上で、解雇法制をもっと緩やかにしようというような動きもあるようですが、それぞれのお国柄で人々の働き方、仕事の仕方・向き合い方も違うので、安易に欧米のやり方を追従できないと考えています。

  

 

 

閲覧数:9回0件のコメント

最新記事

すべて表示

弁護士の東京一極集中

コロナ禍で一旦収まっていた東京ないし首都圏への人口流入が再び始まったとのお話があります。弁護士業界はコロナに関係なく、もうずっと東京一極集中が続いています。ここ数年はその傾向が一層進んで、例えば現在新人弁護士である第76期司法修習生だった弁護士のうち、実に64パーセントが東...

Comments


bottom of page